西日本大学OB・OG囲碁会

梔王第二十四号( 2018年9月発行 )

東西対抗熱戦譜

東西対抗戦熱戦譜(黒6目コミ出し)

解説 坂口 隆三 九段

(白)多賀 文吾(神戸大)
(黒)村上 深 (中央大)

148手以下略 白15目勝ち  記)高橋晃一郎
【第1譜】(1~48)

 この両人は言わずと知れたアマ碁界のビッグネームで、関西に縁が深い二人でもある。神戸大学卒業の多賀さんは言うに及ばず、村上さんも素敵な奥様を関西在住時にしっかりとつかまえている。
 まるで全国大会の決勝のような好カード。
 10のノゾキにツグ碁は最近めったに見ない。この碁でも黒は11とオシて反発する。白は14と進出したが、黒もAのツケなどをみて厚い。先手を得た黒は15とカカり、一間バサミから定石へと進む。26のハネ一本のあと、どこに打つかは好みの分かれるところ。多賀さんは28と、前述のAを防いでじっくりとした足取り。もう一隅で、同じような定石形ができた。黒は先に利かしておいた29を足掛かりに41と割って入り、根拠を確保しようとする。47のオシにジッと48とノビ、多賀さんは力をためる。

【第1譜】(1~48)
棋譜

【第2譜】(49~148)
 49のカミトリは打ちたくなるところ。しかし、この場合は打ち過ぎだったと坂口九段。
 52とかぶせられ、急に窮屈な感じになってきた。49では52にトブぐらいが相場だった。54・55とツケコシの応酬からのワカレは、黒が封鎖を免れる間に二子を抜き、調子で72と守った白がポイントを挙げている。73は大場だが、74に一撃してから76・78と、白はリズムにのってきた。
 83とツメて厳しく迫ったが、84のツケを利かし、91のツケからの力強いサバキが素晴らしく、相手をダメ場に押しやりながら自らを自然に強化し、白が好調。局面を打開すべく、黒は97から力を出してきた。
 104から白も黒を分断しにかかる。黒は113・115と二つアテ、先手で一眼を確保しようとした。
 …こういうところ、普通ツギますよね。115のアテなんて、抜かれりゃ目も当てられないぐらいの超タネ石だし、ノータイムでツギそうなところですが、多賀さんは116とデて、先に左下の黒をイジめる。仕方なく117・119ですが、それから悠然と120のツギに手をまわし、白の優勢が確立した瞬間でした。
 黒は115のアテで、116にツイで頑張るところと坂口九段。それに対して142のキリで一気に攻め合いに進むのは白も怖い。怖いから白がいったん124に頭を出したところで115から眼形を確保しておけばどうだったか。
 実戦は、121から必死にここの眼形を奪って食らいつくが、116にツキダされている分だけ白に余裕があり、結局148までと、お互いに弱い石がなくなると同時に、黒の勢力圏内で存分にサバいた白が地合有利となった。
 トップアマに相応しいレベルの高い攻防、見習いたいものです。

【第2譜】(49~148)
棋譜

(白)梅本 克巳(甲南大)
(黒)林 むつみ(青山学院大)

154手完 白中押勝    記)高橋晃一郎
【第1譜】(1~49)

 青山学院大OGの林さんは、女流アマ選手権や女子学生選手権の全国大会優勝経験をお持ちの筋金入り。女流アマ屈指の実力者である。
対する梅本さんは、確かな実力を持つ甲南大OB。筆者は個人的にお互いに若いころから存じあげているが、囲碁への情熱と若若しさは全く変わっておられません。昔から素敵な先輩です。
 四隅とも星を占める立ち上がり。17と単にハネたが、23まではキッた恰好が悪く、やや黒損だったか。24のトビは、いきなり35に打ち込んで様子を見るのも有力だったと坂口九段。28に29!あわてず騒がず白は30から34と丁寧に受けるが、35に調子で守っては黒も顔が立ったか。
 36から反撃開始だが、38と戻ったときに40あたりに黒はフタをしておけば穏やかだった。39の大場先行に、力をためていた白は勇躍40におどりだし、44まで包囲。黒が45に根を下ろしたのを横目に見ながら46にハサみ、このあたり白が主導権を握った感じ。47・49のツケ二段はこの際の常套手段、さて白の梅本さんの選択はいかに。

【第1譜】(1~49)
棋譜

【第2譜】(50~151)
 50から52にツキ出す。53の単ギリか、54に先にキるかは微妙なところ。ともあれ、先手で隅を確保した林さんは、一団の黒を補強すべく57にツケたのだが…。
 58と反発。いきおい59とデたが、60からずんずん出てこられるのが厳しい。84のサガリの利きを消すため、69から72までを交換してから73とオサエたが、74から二モクにして捨て、代わりに78・80と中央の黒をほぼ手中に収めては白の大戦果である。
 57ではAぐらいから辺に根拠を求めては と坂口九段。それでこれからの碁だったろう。
 非勢を意識したか、81から厳しく黒はヨリツキを狙う。白も大いなる狙いを秘めて84と遮り、退かない。本局の最大の山場が近づいてきた。
 89と迫ってきたとき、ここが96のホウリコミを決める正しいタイミングではなかったか。決めずに95のツギまで進んでからのホウリコミでは、すっぽかしてBとされると、白が形勢を損じていた可能性が大いにあった。(坂口九段いわく「白ちょっと引き込み過ぎちゃうか」とのこと)
 一瞬の危地を脱し、100の狙い筋がついに実現した。102の一線サガリが利いており、攻められていた白は隅か辺の黒を取り込んでシノグことができる。こうなってみると、外側の白の二子は大いに味残りで、さきほどの手順前後は、むしろギリギリまで相手を呼び込んでの強烈なカウンターパンチのような塩梅になっている。
 地としては隅の方が大きいが、黒は辺を活かして、中央の多少の味を強調し、109と大きく囲う。
 110の侵入に対し、黒は少々無理気味でも根こそぎトリカケに行くが、154手まで白がしっかりシノいだ。
 梅本さんの鮮やかな決めワザが光った一局。

【第2譜】(50~151)
棋譜